Interview

がんばる金沢の
女性たちの物語。

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圭奈子さん

今日のうめかさん vol.5

奥 圭奈子さん
愛知県名古屋市出身。
愛知県立高校美術科を卒業後、金沢美術工芸大学へ進学。
老舗デザイン会社に就職後、加賀友禅メーカーに。金沢で初めてのメーカー直営販売・レンタル店を立ち上げ、マネージャーになる。結婚、2度の出産後退職。

きものを着て13年。きものの良さを実感し、講師として、「こころと身体に寄り添う、きものとの付き合いかた」を伝える活動をはじめる。
「深呼吸きもの塾」を開講。
現在どういった活動をされていますか?
明治24年生まれの宿「INTRO玉川」を夫とともに運営しながら、きものとくらしの講師として、「深呼吸きもの塾」を開講しています。きものをきれいに着られるようになりたい方や、たんすの中のきものに命を吹き込みたい方、きものを通じて自分らしく輝きたい方に、着付けはもちろん「こころと身体に寄り添う、きものとの付き合いかた」をみなさまにお伝えしています。最近ではInstagramのフォロワーも増えてきていて、東京大阪名古屋福岡などたくさんの方々からリクエストをいただき、大人の浴衣の選び方や着付け教室などに力を入れています。
金沢にお住まいのきっかけは?
小さな頃は、想像する事が好きな空想ガールでした。絵を描くことが得意だった私は、自由な校風の愛知県立高校の美術科に入学しました。その高校の恩師が金沢美術工芸大学のご出身で、金沢の特性や風情のある街のお話を度々されていて憧れを抱くように。京都と金沢どちらの美大にするか悩みましたが、最終的に金沢美大の美術科油画専攻に入学し、ここに住むようになりました。先輩には漫画家の東村アキコさんや「サマーウォーズ」の細田守監督がいます。
きものに最初に出会ったのはいつですか?
大学では油絵を描きながら、茶道部とフラメンコ部に所属して、静と動のバランスをとっていましたね。茶道をするのにきものが必要なんですが、何にも分からずおばあちゃんに相談したら、グレーのひとつ紋付の色無地のきものを送ってくれました。今思えばとてもシックですよね。それにアンティークの帯などを合わせて着始めたのが、私ときものとの出会いです。
それからすぐきものに携わるお仕事につかれたのですか?

いえ、それはまだなんです。茶道やフラメンコは趣味として楽しく活動し卒業しました。それからは就職活動もせず、せせらぎ通りにあったカウンターバーでバイトをしていましたが、そこで知り合った社長に声をかけられて、金沢のデザイン会社に入社することになりました。アシスタントプランナーとしてT Vの番組宣伝のお仕事や、キャッチコピー、道路の看板や新聞広告などを作ったり、商品の企画をしてセンスの良いデザイナーさんやカメラマンさんと一緒にお仕事をしたり。時には自分で絵も描いて企業宣伝のお手伝いをしていました。2年間頑張ったんですが、誰かが考えたものを宣伝するお手伝いの仕事に違和感を覚え始めました。コンセプトメイキングというか、もっと自分自身が川上から川下まで見ることができる商品を作りたい!という思いがだんだんと強くなってきたんです。そんな時たまたま加賀友禅のメーカーの方が人材を探していて、面白いと思って転職しました。
とうとう「きもの」にたどり着くのですね!転職したお仕事はどうでしたか?
加賀友禅は出来上がるまでさまざまな工程があり、まず仮縫いした白生地に下絵をして、彩色の時に染料が外に浸み出さない防波堤の役割をする糊をつけます。塗り絵のように彩色していき、付けた模様に地色がつかないように伏せ糊をして、きもの全体の生地の色を染めていきます。そして友禅流しと言われる自然の川で水洗いをして仕上げ誕生します。地色を決めるのも大変で、帯揚帯締、鼻緒に宝飾品などの小物まで、着る人のことを考えて色出しをしなくてはいけない。トレンドカラーや地域ごとのバイヤーの好みもある。友禅作家とメーカーとが一緒になってものづくりをしています。しっかりと伝統が守られている業界で、「加賀友禅」と呼んでもらうために必要な落款を得るために、7年以上の修行が必要な世界なんです。

そういったことを学びながら、きものの展示会や作家さんの個展の企画、加賀友禅にあう小物の企画(これは今でもやっていて、 “加賀ごのみ”という帯揚帯締を奥 圭奈子プロデュースとして販売しています。)などを手伝っていました。

そこからご自身できものを着るようになったのですね。

受付などの仕事もあり、きものを着なくてはいけなかったのですが、当時はまだ誰かに着せてもらっていました。それで社長に「自分できものもろくに着れないから、湧き上がるものがないんだろう。だから良い商品を作れないんだ。」と言われて・・・。腹は立ちましたが確かに自分でも感じていたことでした。これを機に「私はきもので生きて行く!」と決め、この日から3ヶ月毎日きものを着て暮らし始めたんです。金沢のきもの業界の関係者はとても多いのに、誰もきものを着ていないんですよ。私はもっと真摯にきものと向き合いたいと思うようになりました。今では1年300日はきもので暮らしています。

その後きものをもっと身近に感じてもらえるような小売店を出すから担当してほしいと言われ、金沢初のレンタル販売できる着物屋を片町スクランブルにオープンさせました。マネージャーとして奮闘する中で結婚、第1子を出産もしました。
順調にキャリアアップされてきたのですね。
いえいえ。出産を終えて戻ってきたら本社の下っ端からやり直しでした。時短勤務でもあったので、店舗業務から離れて配達などをしていました。半年後に店舗に戻り成人式や卒業式の写真撮影などができるスタジオでカメラマンも兼任してましたし、マネージャー業に、営業に、浴衣の季節には別店舗の運営も…
お子さんがいらっしゃる中とてもハードな働き方ですね(絶句)
任されてる分、働き方が過酷になって休日も休まってなかったですね。繁忙期には息子が毎年チックになっていたのも気がかりでした。実は、息子を妊娠中に軽度の子宮頸癌が見つかって、経過観察中でした。変な話になりますが、生理や出産って身体の悪い毒素を血液とともに流して大掃除できる、最強のデトックスチャンスなんですよね。
それにしっかり休めていればNK細胞が頑張って日々身体はリセットされていく。でも私は常にアドレナリン出まくりの交感神経優位状態。きちんとリセットできなくて、結果的に進行してしまったんですよね。でもやっぱり下の子を産みたかった。だから手術をして。その後無事に妊娠、出産しました。これを機に会社は働き方を考えてくれましたが、両親とも石川県にいませんし頼れない状況もあって、これはもう無理だと退職を申し出ました。ちょうど夫が宿屋をやるということになり、2017年4月 一棟宿「INTRO玉川(イントロたまがわ)」をオープンさせて女将となりました。
女将さんと今のきものの活動はつながるのですか?
女将業といっても従業員を使っての旅館などではないので、全部自分でやらなくてはいけません。私はこのまま子育てしながら、お掃除おばちゃんをするかな・・・と守りに入った時期もありました。また宿泊のない日の活用の仕方にも悩みました。でもそこは以前やっていたプランナー魂が騒いだというか、わたしが興味を持つことはみんなも同じく感じてくれるだろうから、色んなレッスンをしたらどうかなと思ったんです。洗濯の講師の方をお招きしたり、さまざまイベントも活発的に開催しました。そうしているとだんだん宿の空きも少なくなってきました。また娘を保育園に通わせたことで自分の時間ができ、きものが好きで自分の一部になっていることに改めて気がついたんです。働いていた時はビジネスとしてきものにたずさわっていたので見えていなかったんですね。

子どもから見てお母さんがサッときものを着るってきっとすごくカッコいいはず!育って行く時に見聞きする環境がその子の人生に影響を与えると思うんです。わたしは自分がきものに関わることで褒められたり、自信につながり前に進んでこれた。母になり、今度はそんな姿を子どもたちに見せたいなと思い活動をスタートしました。初めは単発の浴衣のきもの教室から広げていき、2017年6月に深呼吸きもの塾を開講しました。

「お家にあるきものを気軽に着よう!」がまずテーマにあります。タンスを開いて自分らしくきものを活用する講座をしたり、先日は大人の浴衣の選び方講座を開催して80人もの方に受講していただきました。サロンは有料ですが、多くの方のきもの添削を無料で毎日しています。正面・横。後ろなどトリミングして並べて、赤ペン先生みたいに!ママたちが知っているようで知らない和の文化の入門講座なども開催しています。
これからの活動について教えてください。
コロナ禍で大変に世の中になりましたが、私の軸は全然ブレていなくて。「きものや和文化の入口になる身近な存在でありたい」という気持ちは加速したと思います。
このタイミングで自分のルーツを見つめる人が増えたと感じていますし、全国に届けられるオンラインに可能性を感じました。和文化を知る座学、きものの知識講座、あとは着付実践のオンラインサロンもスタートしました。ありがたいことにどれも満員御礼です。日本人の女性を活かす衣服は、きもの。着付は全然苦しくないし、むしろ身体が整うからもっと着たくなるんですよね。姿勢、体幹、冷え防止、経血コントロール、身体の使い方も。きものを日常に取り入れていくと、人としての感度も高まっていくのかもしれません。特別なきものもあれば、普段着のきものもある。ハレとケのバランスが崩れて、特別で高価なイメージばかり膨らんでしまっているのがもったいない。
めったに着ない着物の練習をしても、着なければ忘れてしまいますよね。木綿などの普段着を気楽に着て過ごすようになると、きものの効果を体感できます。そうするとどんどん着たくなって、きっとまちの景色だって変わるはず。
まわりが全員洋服姿だとしても、流されずに着物を選べる軸のある人。自分が起点となって文化を広めていける人はカッコいいと思います。そんな「自立した女性」になりたい方の起動スイッチを、私はこれからも押しまくっていきます。
金沢の好きなところはどこですか?
95年の古民家に住んでいるのですが、金沢の方は周りと調和しながら町並みを整えています。そういう古いものをちゃんと残していこうという気持ちが感じられるところが好きです。
ほっと一息つけるスポットを教えてください。
金沢は用水が多い水の街。水の流れが清らかで、気が澄んでいるせせらぎ通りはよく歩いています。また長町のcafé MORANさんもオススメです。風情のある場所のお洒落なお店で、友人が焙煎するコーヒーはとても美味しいです。コロナ自粛期間の時に、ここだけは営業してくれていて、テイクアウトを楽しみました。家の近所なのですがとても癒されています。
かなざわハイカラクッキーはいかがですか?
ほろっさくっ、とした食感が気に入りました。
石川の特産がさりげなくフレーバーになっているのがいいですね。

名古屋の母と一緒に食べましたが、お洒落なパッケージと味比べに話が弾みました。「甘すぎない大人のおやつ」ですね。
ありがとうございました!